夫婦間のトラブルは、離婚だけではありません。やむを得ず別居に至っているけれど、いまだ夫婦であるとき、一番大きな問題は、生活費の分担についてです。夫婦には扶助義務があり、それは、余裕のある範囲内での援助はなく、余裕がなければないなりに相互に扶助しなければならないものです。
対策として、婚姻費用の分担請求が一番に挙げられます。十年以上も別居して、婚費を支払い続けている人もいます。
将来の離婚に備えて、今のうちに離婚条件の契約書を作成しておこうという場合もあります。
1)まだ何もトラブルはない
2)問題ありでも離婚は回避したい
3)離婚が視野に入っている
それぞれのご夫婦が夫婦間契約を作成できます。
1. 将来の離婚に備える夫婦間契約
結婚する前に、夫婦の法定財産制と異なる契約をし、それを婚姻前に登記した場合は、その契約が有効であり、第三者にも対抗できます。でも、これを利用している夫婦は、ごくごく稀です。
ここでいう夫婦間契約とは、別居などに直面し、将来の離婚も見据えた形で今のうちに財産の処分法などを決めておこうという場合です。財産分与の取り決めが中心になります。
配偶者が、結婚生活に危機をもたらす行為をしたとき、「今回は許すけど、でも次は許さない。」となった場合も、「次は許さないからね、離婚するときはこんな条件で」という契約書を作ることがあります。こんなときは、相手は反省と努力の意思があるので、協力的になることが多いです。
2. 別居中のルールとしての夫婦間契約
別居に至ったからといって、必ず離婚するとは限りません。別居してみて相手の「ありがたみ」がわかったご夫婦も少なからずいらっしゃいます。
しかし、当面別居する覚悟でいるのなら、その間の生活費の分担や住居の占拠や侵入の可否などについて明文化しておくと、要らぬエネルギーを消耗しなくても済みます。
契約書を作る段階には、なかなか持っていけないかもしれませんが、実は重要なことです。小さなお子さんがいる場合は、その動揺を軽減するためにもルール作りは大切です。
生活費を支払ってもらう側が勝手に別居に踏み切った場合は、なかなか婚姻費用を払ってもらえません。どうしても「勝手に出て行ったくせに」と言われます。
相手も胸に覚えがある場合は、請求したら払ってくれる可能性があるので、まずは通知を出して、支払の請求と契約書作成の要求をしてみましょう。相手に自覚がないときは、無駄かもしれませんが。
3. 別居中の生活費-婚姻費用の請求
別居中の夫婦でも、相互扶助義務はありますので、生活費の分担を請求できます。(婚姻費用)養育費と違うところは、配偶者の分も含まれているところです。
婚姻費用も、養育費と同じように子供の人数や収入による算定表があり、多くは、これに沿って金額を決めます。配偶者が勝手に出て行った場合、残された家族の生活費を請求する権利がありますから、相手の所在が分かっていれば、内容証明を送り、婚姻費用を請求します。請求に応じない場合は、調停の申し立てを検討してください。
婚姻費用の金額に合意が成立したら、公正証書を作るのが望ましいです。別居は長期に及ぶかもしれないし、当初は払ってくれても、払い続けてくれる保証はありませんから。
契約書作成に際しては、支払い期間の歯止めを決めてください。「離婚に至るまで」としておくと、80歳になっても支払わなければならなくなります。「70歳になったら見直す」などと入れるといいです。
別居すればだれでも婚姻費用の請求ができるかというとそうではありません。特段の問題もないのに子供を置いて家を出て、婚姻費用を支払えと請求しても認められません。
4. 夫婦間契約の取消権に注意
民法754条にこうあります。
「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 」
夫婦間の契約には、取消権があるんです。離婚協議に至っている場合には、この取消権は認められないとされていますが、そこまで至ってない時点での夫婦間の契約には注意が必要です。
対策は、契約書中で「取消権の放棄」を謳っておくことです。こうしておかないと、どんなに立派な契約書も反故にされかねません。
5. 結婚前に作成する結婚契約書
夫婦の財産制については、民法に定められています。法定財産制と異なる契約をすることもできますが、その場合は、婚姻届出の前にその登記をしておかなければなりません。
結婚契約書を作りたいと希望する方で、法定財産制と異なる取り決めをしようと考えているケースはほとんどありません。統計からみても、全国で年間5件程度ですので、極めて稀といっていいでしょう。
昨今増えているのは、結婚する前にきちんとルールを作り、それを文書化したいというご要望です。
その文書にも「結婚生活のルールを決める契約」と「万が一離婚に至った場合の処理について決める契約」の2種類あります。
前者の方が作りやすいです。相手がどういうことを重視しているのか確認する意味でも、無駄ではないと思います。それでも、結婚は生活ですから、ルールに縛られずにケースバイケースで乗り切ることも大切かと思います。
後者については、同じ離婚といっても、婚姻期間、子供の有無、財産状況、健康状態、就業状況、親族の介護や相続問題など、状況によって離婚条件も大きく変わりますので、それを結婚前に想定しておくのはかなり無理があると考えます。
そういうことをお互いに理解したうえで作成すると良いでしょう。
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