離婚届を出す前に、離婚協議書を作成しようと考える人が増えてきました。でも、一般の離婚協議書では不十分な場合があります。強制力がないために、約束がきちんと守られる保証がありません。裁判しようにも、費用倒れになってしまうときは、裁判にもできず泣き寝入りです。
そういう事態に備えて、公正証書の作成を検討してください。公正証書は、公証人が作成する、非常に証拠力の高い書類です。一定の条件を満たせば、裁判なしで強制執行ができます。
日本における離婚の9割が協議離婚です。簡単な手続きで離婚できるこの制度では、離婚条件を公的に証明してくれるものがありません。最近では、公正証書が身近になってきて、離婚時の養育費の取り決めになどには公正証書が有益だと周知されてきました。
特に下記に該当する場合は、離婚給付公正証書を作成しましょう。
- 未成年のお子さんがいる場合
- 財産分与、慰謝料等を分割で支払う場合
- 離婚してから金銭の支払いまで、かなり間がある場合
- ローン残債のある不動産がある場合
- 離婚後しばらく時間をおいてから共有財産を清算する場合
- 相手方が転居や転職をしそうな場合
- 相手方が「金銭の支払い完了まで離婚しない」と主張している場合
1. 強制執行認諾約款
お金を払ってでも公正証書を作るのは、「強制執行認諾約款」というものがあるからです。 金額と支払期日の明記されている金銭債権については、不履行があれば、裁判なくして差し押さえができるというすごい威力を有している文書です。
「強制執行認諾約款」は、お金を払う債務者が合意しないと付けられないのですが、この約款の威力を深く考えることなく軽い気持ちで合意する人がいますので、要注意です。むしろ締結前に抵抗する人の方が、きちんと理解していて、締結後は滞りなく支払ってくれる傾向があるように思います。
2. どの範囲を公正証書にするのか
公正証書は、法的に問題がなく、公序良俗に反しなければ、大抵のことは書いてもらえます。でも、公正証書に書いてもあまり意味のない事柄もあります。
養育費・慰謝料・財産分与などの金銭債権については、是非、公正証書にしてください。他の私署証書とは全く異なる値打ちがあります。
同じ金銭債権でも、契約時に金額や支払い期日が確定できないものは、強制執行認諾の対象にはなり
ません。また、家屋の明け渡し、物品や不動産の譲渡、面会交流やその他誓約事項などは、公正証書を債務名義とした執行の対象でないのは言うまでもありません。
公正証書を作るときは、まず全般的な離婚協議書を作って、その中から、公正証書で差押えができる金銭債権だけを抜き出し、その項目だけを公正証書にすればよいのだと、ある公証人から指導されたことがあります。確かにそのとおりです。
しかし、依頼人にそのように説明しても、それでも全部公正証書に記載してくれと望む人もいます。「心構えの問題だ」とおっしゃいます。こちらもそのとおりです。
3. 公正証書にすれば万全なのか
公正証書は大きな威力を発揮しますが、万能ではありません。金銭債権以外では強制力はないし、金銭の支払いでも、金額と支払期限が明記されていないものについては、債務名義にはなりません。
証拠力は高いとはいえ、不動産の譲渡や住居の明け渡しなどは、公正証書があるからといって、裁判なしにはどうにもなりません。まして、誓約事項などの抽象的な事項などは、守られているかどうか判断が難しいです。
金銭の不払いがあったときは、自動的に執行してもらえるわけではなく、債権者が自らアクションを起こさなければなりません。
それでも、公正証書を作成しておいた方がましだと思います。
4. 相手が公正証書作成を渋るとき
離婚を求めているのが相手方である場合、公正証書作成の要求は比較的容易に応じてもらえます。相手方には、早く解決したいという思いに加え、「悪い」という意識があって、比較的よい条件、かつ、早期に作成できることがよくあります。
それに対し、養育費や慰謝料・財産分与の支払いを受ける側が離婚を求めている場合は、相手が公正証書の作成を嫌がる傾向があります。特に、強制執行認諾約款を付けることに抵抗があるようです。
そういう場合は、離婚せず別居した場合の婚姻費用の負担を認識させたり、調停を意識させたりすることで、「現段階で応じた方が楽だ」と理解してもらう努力が必要です。
「自分は絶対に最後まで払うから、こんな紙切れは必要ない」と主張する人もいます。こういう場合は、相手のプライドを傷つけないように配慮しながら話を進めましょう。
5. 代理締結が可能なことも
「公正証書を作ってもいいけど、公証役場まで行くのは嫌だ」という人が少なくありません。その多くは夫です。離婚公正証書は身分に関することなので、代理締結は望ましくないという意見の公証人もいらっしゃいますが、委任状と印鑑証明をもらえば、代理締結も不可能ではありません。
しかし、本人が出頭できればそれに越したことはありません。
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